大腸菌群の擬陽性について
日本では、食品衛生検査指針や食品衛生小六法などに沿って、推定試験として用いられるBGLB発酵管法(BGLB法)とデソキシコーレイト寒天培地法の内、BGLB発酵管法が用いられるケースが圧倒的に多いのが実情です。
そして、山芋抽出物のような根物由来原料や酵母原料などでは、BGLB発酵管法を用いると、僅かにガスを発生し擬陽性が示されることがございます。
一方、確定試験であるEMB培地法で試験を行うと、陰性が示されます。
※食品衛生検査指針に収載されているペクトフィルム法やデソキシコーレイト寒天培地法などで分析しても、陰性が示されます。
なお、BGLB発酵管法では、様々な検体希釈率が用いられ、検体の希釈率条件が濃いほど擬陽性を示しやすいことがわかっております。
弊社でも、数回、山芋抽出物で擬陽性(BGLB発酵管法)が示されたケースがございますが、すべて陰性となっております。
特に、弊社の山芋抽出物は、工場の基準(中国国家標準GB 4789.3(第2法))で、LST培地(ラウリル硫酸ナトリウム培地)が利用されているため、BGLB発酵管法との差が擬陽性として示されやすい傾向が認めらています。ご注意くださいませ。
※LST培地は、日本薬局方に収載されている培地であり、医薬品の分析方法になります。
また、損傷菌が多い場合、希釈水のペプトン有無によっても、差が生じるという報告が行われています。ペプトンにより損傷菌が復活(回復)するためです。
公的検査機関の中には、ペプトンを加えない希釈水を用いて検査を行っているケースもあるようです。
なお、ペクトフィルム法で検出されない理由も、ペプトンの有無などが関係しているものと推測されます。
参考文献:
水落慎吾 損傷菌とその回復における培地からの試み 日本防菌防黴学雑誌 2003;31(4):197~205.
山芋抽出物の殺菌工程と大腸菌群の検査方法
弊社の山芋抽出物は、塩酸を添加してpH2、95℃の条件下でエタノールによって2時間抽出されております。
大腸菌群の定義は、グラム陰性の無芽胞(芽胞をつくらない)桿菌で、乳糖を分解して酸とガスを産生する、好気性または通性嫌気性(酸素があってもなくても発育する)の細菌です。
常識的に考えても、無芽胞の大腸菌群が製造条件に耐えれるとは考えにくく、製造条件を考慮すると、反応(乳糖を分解して酸とガスを産生)を示す何らかの特殊な熱耐性菌(芽胞菌など)が存在しているものと推測されます。
実際、土壌には、芽胞菌が広く分布していることが報告されており、芽胞を作る細菌などは、大腸菌群の微生物検査では、BGLB発酵管法で擬陽性を示すことも知られています。
例えば、温泉や土壌などに分布するThermus属やThermomicrobium属など、耐熱性のグラム陰性桿菌(おそらく有芽胞桿菌)などが該当いたします。
これが土壌由来の素材において、BGLB発酵管法で擬陽性を示しやすい理由です。
土壌由来細菌の影響を受けやすい本原料の大腸菌群の試験方法は、BGLB発酵管法での分析より、デソキシコーレイト寒天培地法の方が適しているものと考えられます。