海外と日本の微生物検査の違い

健康食品サプリメント業界では、海外の輸入原料の微生物検査において、どんなに厳格な品質管理を行っていても、しばしばトラブルが生じます。

そのトラブルの原因の多くは、微生物検査の検査方法の違いや標準的な菌数の違いによるものです。

一般細菌数

日本国内では、標準寒天培地法が主流であり、海外では、試験サンプル必要量が少なく簡便なペクトフィルム法を用いることが主流となりつつあります。

米国薬局方(USP)でも、標準寒天培地法が存在しますが、寒天培地の組成・検体の希釈液や寒天の混ぜ合わせ手順などの違いがあります。例えば、日本では、主に酵母エキス-ペプトン-ブドウ糖-寒天培地が使われ他の培地も使われることもありますが、米国では、大豆-カゼインダイジェスト-寒天培地のみに指定されています。
※日本で流通する寒天が混ぜ込まれた酵母エキス-ペプトン-ブドウ糖-寒天培地は、海外で入手が困難であり、同条件での検査が難しい現状がございます。

また、試料の調整には、日本では生理的食塩水に限定されますが、米国薬局方では、リン酸緩衝液、液体大豆-カゼインダイジェスト培地または液体カゼインダイジェスト–大豆レシチン–ポリソルベート20の3培地から選択が可能です。

弊社の検証分析では、大きな差こそでないものの、値に多少の差が生じることがわかっています。

また、海外で主流となりつつあるペクトフィルム法は、芽胞を形成する乳酸菌など、一部の細菌を検出できないこともわかっております。
そのため、弊社では、標準寒天培地法での品質管理を海外原料メーカーに求めることもございます。

なお、健康食品サプリメント原料の一般細菌規格は、北米やヨーロッパなどの海外では10000個/gが一般的であり、日本の3000-5000個/gは非常に珍しいです。
弊社はエキス末が多いため、3000個/g以下での規格を行っておりますが、原料の中には、3000個/g以下での管理が難しいものも存在します。主に菌が繁殖しやすい特性のある原料です。こういった原料は、ロット内でも菌数のバラツキを生じやすく、トラブルを招きやすいです。

日本における健康食品サプリメント原料の一般細菌規格は、年々厳しくなりつつありますが、海外の基準との差を加味していかないと、使用できる原料が減るだけでなくトラブルも招きやすくなってしまいます。結果、管理コストだけが跳ね上がります。一般細菌の規格は、適度な値に設定することが重要です。

大腸菌群

大腸菌群に関しては、海外で検査が行われることが少なく、日本特有の細菌規格とも言えるでしょう。
海外では、主に大腸菌のみを検査することがほとんどです。

また、大腸菌群を検査する場合、健康食品サプリメント原料で最も使用されることが多いBGLB法ではなく、JECFA 規格の推定試験に用いられ、日本薬局方に収載されているLST培地が用いられて検査が行われることが多いです。
※どちらも発酵管によるガス発生を指標とした検査です。

そのため、LST培地で陰性を示していても、BGLB法で擬陽性を示すこともあります。特に、土壌菌を含みやすい根物の原料は、擬陽性を示しやすいです。

大腸菌群の擬陽性について

なお、日本では、生鮮食品や冷凍食品などを中心に、デソキシコーレイト寒天培地法を用いた検査を行われることもございます。一部の分析機関は、大腸菌群の標準分析法にデソキシコーレイト寒天培地法を採用していることもございます。

また、BGLB法では、検体の希釈率によっても、擬陽性の出方が異なってくることもわかっております。
その希釈率の取り決めがなされておらず、トラブルを生じさせるケースもございます。

その他の細菌

海外では、大腸菌群として分析しない代わりに、サルモネラ菌を規格すことが多いです。

その他、黄色ブドウ球菌や胆汁酸抵抗性グラム陰性菌の規格が求められることもございます。

管理管理体制の違い

日本の原料製造メーカーでは、工場内で菌検査を実施することが多いです。中には、出荷直前、毎回試験を実施している原料メーカーも存在します。
一方、海外では、工場内で菌検査を実施することもありますが、外部の第三者機関で試験を実施することが一般的です。

また、海外では、包装直前/包装時でしか各種試験を行わないことが一般的です。
そして、必ず加速試験や成り行き保管後の試験など安定性試験を実施し、有効成分の減衰や微生物の増殖を把握します。その安定性試験の結果を用いて、賞味期限や規格基準を設定いたします。

そういった管理体制の違いにより、ほとんどが3000個/g以下であっても10000個/g以下の規格を用いたり、日本では賞味期限にあたる期限を有効期限(expiry date)や再試験日(Retest date)と表記するのでしょう。

この品質管理体制の違いが、トラブルの原因となっていることもあるでしょう。

必然的に、無理のある規格であれば、トラブルも生じやすくなります。
実際、3000個/g以下で規格保証するのであれば、包装時に2000個/g以下(好ましくは1000個/g以下)である必要があるのでしょう。

品質管理の難しさについて

最後に、弊社でも輸入時にも確認試験を行う管理体制で品質管理を行っておりますが、稀に、菌規格を満たさないという報告が来ることもございます。
検体汚染のケースも少なくないため、まずは、再サンプリングによる再現性の確認を行ってもらっております。

再サンプリングによる再試験は、自社での試験と第三者機関での両方での試験をお願いしております。
また、代替原料を送る場合、事前にサンプリングして第三者機関で試験を実施することもございます。

それでも、試験結果が生じることもございます。
その場合、試験施設・設備における汚染の可能性も疑われますが、原因究明できないことが多いです。

過去、大腸菌群の結果の差が生じた際、差の原因は、BGLB培地への調整液添加後の(分散不良が生じた際の)混釈の有無の違いでした。

品質管理には、上記のような難しさもございます。厳格に基準を設定することも重要ですが、基準に(問題のない範囲で)遊びの部分を設けておくことも重要です。