アスリートと鉄(スポーツ貧血)
アスリートは、発汗や溶血による鉄の損失だけでなく、ヘプシジンの分泌亢進(鉄の吸収抑制)が起こるため、鉄欠乏が起こりやすいことがわかっています。そのため、アスリート特有の貧血をスポーツ貧血と呼び、アスリートは、パフォーマンス低下を防ぐためにも、栄養摂取基準より多くの鉄を摂取することが推奨されています。
そのスポーツ貧血は、栄養素の必要性が一気に高まる成長期にも起こりやすいことがわかっており、男子児童・女子児童・生徒は、常に鉄不足であったことが報告されています。
成長期の子供は、血液量が増えると必要とされる鉄の量も多くなり、筋肉量が増大することで筋肉内のミオグロビンの産生が増え、鉄の需要が一気に増えます。特に、成長期のアスリートが鉄欠乏に陥りやすいのです。
加えて、女性アスリートは、定期的な月経による鉄損失もあるため、推奨量の1.5倍(15mg/日)を満たすよう勧められています(日本体育協会スポーツ医・科学専門員会のアスリートの栄養・食事ガイド)。成長期の女子アスリートの栄養管理が非常に重要視される理由でもあります。
一方で、鉄は、食事だけでは補いきれない傾向も示されており、サプリメントの利用を推奨している報告も多く存在します。
実際、市民ランナーレベルでも、日常的に長距離を走っている人は、鉄不足を感じているという声が多く聞こえてきます。
なお、近年、貧血を起こしやすいスポーツとその理由も明らかになり始めています。
溶血を招きやすいスポーツやヘプシジンの分泌を高めやすいスポーツです。
ヘプシジンの分泌亢進による鉄の吸収抑制は、食事(糖質)の制限でも起こることがわかっており、栄養不足も起こりやすい減量が伴うスポーツでは、貧血が起こりやすくなってしまうのです。
運動性・溶血性貧血
スポーツによっては、運動性の溶血性貧血も起こしやすいことも数多く報告されています。長距離走(マラソンや駅伝など)、サッカー、バレーボール、バスケットボール、剣道、空手など、足裏に衝撃の強いスポーツに特に多いと言われています。
この貧血は、足裏の衝撃により多くの赤血球が壊れることで起こる貧血です。この貧血では、運動によって壊れてしまう赤血球の数が骨髄で新しく作られる赤血球の数を上回ってしまい、血液中の赤血球が少ない状態になっています。
アスリートの健康管理において、こういったスポーツの貧血対策は、栄養士など栄養指導の専門家でも苦労しているようです。そのため、長距離走のアスリートなどは、血清フェリチンを敵機的に測定し、鉄摂取量をコントロールされているケースも多いです。
なお、この溶血貧血は、女性に限ったものではなく、男性でも起こっている事例が報告されています。
この貧血のアスリートも、鉄を食事だけでは補いきれないため、上手にサプリメントなどを利用することが推奨されます。
アスリートの鉄選び
摂取する鉄素材を選ぶ際、必ず加味しなけれならないのが、吸収性と副作用です。
アスリートの場合、鉄欠乏しやすいため、ピロリン酸鉄やクエン酸鉄など二価の無機鉄でも、吸収できるでしょう。一方、鉄補充は、パフォーマンスとも関係性が深いため、アスリートは、ヘム鉄のような吸収の良い鉄が選択する傾向が強いです。
近年、フェリチン鉄が選ばれるようになったのも、この吸収性が理由の1つです。
参考:鉄の吸収と鉄不足判定
過去、鉄が特に女子アスリートのパフォーマンスを上げることから、陸上界では体に負担がかかる鉄剤注射を利用され、大きな問題となりました。
鉄は、フリーラジカル(活性酸素)を作ることでも知られており、鉄は、不足していたら補わなければならない栄養素ですが、過剰摂取にも注意が必要な栄養素です。
また、経口の鉄素材を選ぶ場合、鉄特有の副作用であり、フリーラジカルによって引き起こされる胃腸障害(主に胸焼け)の有無も重要なポイントとなってきます。
ヘム鉄もポルフィリン環と構成されているため、無機鉄より副作用が少ないとされていますが、フェリチン鉄も、タンパク質に包まれた鉄のため、副作用が少ない構造上の特徴がございます。
現在、フェリチン鉄が選ばれている理由の1つでもあります。
なお、アスリートがサプリメントなどを利用する場合、ドーピングに注意する必要があります。
鉄と言っても、様々な鉄素材が存在します。吸収の良いことが知られているヘム鉄は、豚・牛の血液から分離抽出されていることより若干のホルモンが含まれるため、アンチドーピングの観点からは必ずしも好ましくはありません。過去、2019年、ヘム鉄を配合していたことによりアンチドーピング認証のテストを受けた商品で陽性が示され、大きな回収騒動が起こった事例もございます。
まめ鉄では、原料としてアンチドーピング認証のテストを行って結果、陰性も示されており、吸収面や副作用の点からも、アスリート向けに適した鉄素材であると言えるでしょう。
引用文献
極端な糖質摂取制限による短期間の減量が鉄代謝に及ぼす影響 浦上財団研究報告書 2020;27 28-32
日本体育協会スポーツ医・科学専門員会のアスリートの栄養・食事ガイド
スポーツ貧血–ヘモグロビン正常、フェリチン低下にどう対応するか?– 慶應義塾大学スポーツ医学研究センター紀要 2012; 9-13
スポーツを行う児童・生徒に生じる,貧血を伴わない鉄欠乏症の成因の検討 日本臨床スポーツ医学会誌 2024;32(1):143-153
2.女性トップアスリートと鉄欠乏性(潜在性を含む)貧血 日本臨床スポーツ医学会誌 2016;24(3):371-373
女子高校生運動選手の貧血発症に係わる主な栄養学的因子 運動とスポーツの科学 2022;28(1):69-78
高校空手選手における貧血調査 整形外科と災害外科 2021;70(4):703-706
鉄代謝の生体に及ぼす影響 外科と代謝・栄養 2015; 49(2) 59-65.
鉄と発癌 日本内科学会雑誌 2010; 99(6) 1277-1281.