妊娠・妊活と鉄
鉄の栄養摂取基準(右表)では、妊娠 中期・後期は、推奨量の付加量が+15mgとなり、1日あたりの推奨量が約2倍になります。
妊娠期に妊婦は、胎児の成長やさい帯・胎盤中への鉄貯蔵、循環血液量の増加などに伴い、鉄の需要が増加するためです。そのため、鉄は、妊産婦のための食生活指針等でも、妊婦が不足しやすい栄養素の1つとして、十分な摂取が推奨されています。
現在、日本人の成人女性は、鉄の摂取量が平均4.1mg不足しているというデータ(国民健康・栄養調査)も示されており、鉄の摂取量を意識的に増やさないと、かなり多くの女性が鉄不足になってしまうでしょう。実際に、多くの妊婦が鉄不足を感じているという調査結果も示されています。
一方、妊婦(中期・後期)の推奨量の鉄を補おうとすると、食事だけで補うことがなかなか難しいのが実際です。サプリメントや医薬品(鉄剤)を利用するのも一手なのでしょう。
なお、妊婦は、鉄剤の副作用で、胸焼けだけでなく、吐き気の症状が出るケースがあります。そのため、鉄不足を感じていても、鉄剤を敬遠されるようです。
妊婦は、できるだけ副作用が少ない優しい素材・商品を選択するべきなのでしょう。例えば、鉄に加えて、妊娠期に摂取が必要になる亜鉛や造血に関係する銅などが配合されている商品の場合、亜鉛や銅でも鉄と同様な副作用が起こりやすいため、なるべく鉄以外のミネラルが入ってない商品を選択するのも一手です。
【商品選びの注意点】
近年、つわりが酷いから副作用が少ない鉄としてフェリチン鉄を選択したのにもかかわらず、他の素材鉄がたくさん入っていて、副作用が起きたという妊婦からのクレームも多いようです。
妊婦に限らず、商品を選ぶ場合、他の鉄素材の有無や配合量もしっかりチェックする必要があるのです。
引用文献:
妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針 ~妊娠前から、健康なからだづくりを~ 解説要領 厚生労働省(令和3年3月)
日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会 報告書:微量ミネラル 鉄(Fe)
平成29年国民健康・栄養調査
妊婦の食生活に関する意識調査 株式会社ニューアクション
妊活にも鉄
鉄は、妊活時にも必要なミネラルとして知られています。鉄と妊娠の関係性も数多く研究されており、妊活時から鉄を積極的に摂取しておく必要性が示されているからです。
例えば、ハーバード公衆衛生大学院らの研究チームは、鉄サプリメントを摂取した女性は、鉄サプリメントを使用していない女性よりも排卵性不妊症のリスクが有意に低かったと報告しています。そして、主にマルチビタミンや鉄サプリメントとして摂取される非ヘム鉄の総摂取量は、不妊症のリスクと逆相関していましたとも報告しています。
また、コペンハーゲン大学病院のGeorgsenら研究チームでは、初診時のフェリチン濃度は、流産患者(中央値;35.7μg/L)は低く、血清フェリチン濃度が30.7μg/L未満の割合では、対照群(13.7%)に比べて流産患者(35.7%)の比率が多かったと報告されています。また、初診時の既往歴で初診以前の流産回数が多いほど、血清フェリチン濃度は低値であったと報告しております(原文 Fig. 2)。
血清フェリチンは、医薬品の鉄剤を用いた場合でも、回復までに3ヶ月以上かかると治療指針等に示されています。先述の通り、日本人女性の多くは、鉄不足もしくは血清フェリチンが低い潜在的鉄不足(いわゆる隠れ貧血)です。
これらの結果からも、妊活時から鉄を十分に摂取してフェリチン値を高めておく必要があるのです。
引用文献:
Iron intake and risk of ovulatory infertility Obstet Gynecol. 2006;108(5):1145-52.
Serum ferritin level is inversely related to number of previous pregnancy losses in women with recurrent pregnancy loss. Fertil Steril. 2021;115(2):389-396.